実測データばらつきを考慮した電池熱暴走シミュレーション

田中 健太1, 北川 勇人1
1株式会社コベルコ科研,〒651-2271 神戸市西区高塚台1丁目5番5号 神戸総合技術研究所内 5号館5階
Publié en 2026

リチウムイオン電池の熱暴走および熱伝播挙動を高精度に予測する物理ベースシミュレーションは、電気自動車(EV)や定置用蓄電池に用いられる電池モジュール・パックの安全性評価において重要な役割を担っている[1]。熱暴走の発生およびセル間の熱伝播は、材料の熱物性や分解反応に伴う発熱特性に大きく依存する一方で、これらの物性値には測定誤差やばらつきが内在しており[2]、予測結果の不確実性要因となる点が課題である。 本研究では、比熱、熱伝導率、活性化エネルギー、ならびに熱分解反応に伴う潜熱を主要な不確かさ要因として選定し、3つの角形リチウムイオン電池セルから構成される簡易モジュールを対象とした一次元熱伝播モデルをCOMSOL Multiphysics上に構築した[3]。Fig.1にパラメータの不確かさ伝搬のイメージ図を示す。モデルの妥当性検証および校正パラメータの同定は、パラメトリック解析による計算結果と実測温度データとの比較を通じて実施した。 不確かさ要因として選定した各パラメータを変動させた場合のセル温度履歴および熱暴走伝播挙動への影響を評価した。Fig.2に熱暴走時刻、最大温度のヒストグラムを示す。その結果、熱暴走発生時刻のばらつきはトリガーセルから離れるほど増大する傾向が確認された。また、熱暴走発生確率はトリガーセルに隣接するセルで97%であったのに対し、その更に隣りのセルでは75%まで低下し、熱源からの距離に応じて熱暴走伝播リスクが減少することが示された。 加えて、COMSOLと外部ソフトSmartUQを連携させ、サロゲートモデルを用いた感度解析を実施した。その結果、セル温度の予測に対しては比熱容量や活性化エネルギーよりも、熱伝導率および潜熱の変動が支配的な影響を及ぼすことが明らかとなった。これらの知見は、熱暴走シミュレーションの信頼性向上に向けて、優先的に高精度化すべき熱物性パラメータの特定に有用であり、電池システムの安全設計およびリスク評価の高度化に貢献する。